民法改正5つのポイントー⑤賃貸借ー

賃貸借契約の分野における改正について説明しています。不動産賃貸借に関わる方はお読みください。


改正の影響がある企業
・不動産賃貸借契約において賃貸人となる企業
・マスターレッシー
・不動産信託契約の受託者

改正による具体的な影響
・不動産物件のオーナー(信託受託者を含む)がテナントと賃貸借契約を締結している場合に、テナント管理等を委託するためにマスターレッシーを介在させたい場合、手続の省力化が可能となりました。
・不動産の一部が滅失した場合、賃借人から賃料が支払われても、後に返還請求を受けるおそれがあります。


第1 賃貸借分野の改正の概要

賃貸借の分野では、借地借家法の適用がない賃貸借の期間の上限が伸長されました。また、賃貸借契約(対抗要件が具備されていることが条件です)が締結されている不動産の所有権が譲渡された場合、賃貸人の地位は譲受人に移転しますが、民法改正により、一定の要件を満たすことで賃貸人の地位が移転しないようになりました。この他、賃借物が一部滅失した場合の賃料減額の規定も改正されました。これらの点について見ていきます。

第2 借地借家法の適用がない賃貸借の期間の上限

改正前民法では、借地借家法の適用がない賃貸借の期間の上限は20年でした。改正民法では、これが50年に伸長されました。借地借家法の適用がない賃貸借としては、動産の賃貸借、ゴルフ場の敷地や駐車場用地の賃貸借などがあります。

第3 不動産の賃貸人の地位の移転

従前、対抗要件が具備されている賃貸借契約が締結されている不動産の所有権が譲渡されると、賃貸人の地位は当然に譲受人へと移転するとされていました。しかし、マスターリース契約のように、所有者としては賃貸借契約を締結する相手方はマスターレッシーのみとし、マスターレッシーが複数の転借人との契約を締結し、それを管理することを希望する場合があります。このような希望を譲受人が持っている場合、賃貸人の地位をいったん承継することは避けたいというニーズがありました。

そこで、改正民法では、譲受人が譲渡人との間で、賃貸人の地位を譲渡人に留保し、かつ、譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人の地位は譲受人に移転しないという取扱いが許されることになりました。この場合、譲受人が賃貸人、譲渡人が賃借人になりますので、もともとの賃借人は転借人ということになり、立場に変化があります。これをもともとの賃借人(所有権譲渡後の転借人)の目線で見ると、自らの関与なく、転借人になってしまったということになります。

賃貸借契約が賃借人の債務不履行によって終了した場合には、賃貸人から求められれば、転借人は明け渡さざるを得ないという点で、転借人という地位は賃借人よりも不安定な地位です。つまり、もともとの賃借人は何らの合意なく転借人となってしまうという不利益を受けていることになります。そこで、改正民法はこの点を考慮し、賃貸借契約が終了した場合、転貸人の地位は譲受人が当然に承継するとして、転借人の保護を図っています。

第4 一部滅失の場合の賃料減額

改正前民法では、賃借人の責めに帰すべき事由によらずに賃借物の一部が滅失した場合、賃借人からの請求があれば、賃料を減額する義務がありました。改正民法では、賃借人からの請求の有無とは無関係に、当然に賃料が減額されることとなります。したがって、満額の賃料が支払われていたとしても、客観的には賃料が減額されていて、賃貸人が受領した一部の賃料は不当利得となる、つまり、後になってから返還請求を受けるということがあり得ます。このケースで特に注意すべきは、賃借人から何らの通知を受けなかったため、賃借物が滅失等していることに賃貸人が気付かず、修繕する機会がないままに長期間経過した場合です。

これについては、賃借物について修繕を要する場合の通知義務が履行されない場合は賃料が減額されないことを定めるなど、契約において対処していく必要があります。