保証契約の締結当事者、特に個人の保証人と保証契約を締結する債権者の方が注意すべき事項を説明しています。
改正の影響がある企業
・保証契約を締結する企業、特に債権者
改正による具体的な影響
改正による具体的な影響
・保証契約を締結後、保証契約が無効となるおそれ、あるいは取り消されるおそれがあります。
第1 保証分野の改正の概要
改正前民法下においては、個人の保証人が多額の保証債務の履行を求められ破綻する事例が頻発しました。そこで、改正民法では、個人が保証人になる場合の保護策が拡充されました。また、保証人が個人か法人かを問わず、保証人の保護を拡充する改正も行われています。以下では、保証分野のうち特に注意が必要であると思われる事項について、改正の内容とこれに対する実務上の対応を解説します。
第2 保証契約締結時の情報提供義務
1. 情報提供義務が課される場面と、提供が義務付けられる情報
改正民法では、以下の要件を満たす場合に、主債務者が保証人に対して、保証契約の締結に先立って一定の情報を提供することが義務付けられました。まず、情報提供義務が課される要件は次のとおりです。
① 主債務が事業のために負担する債務(主債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる場合を含みます)
② 委託により保証する場合
③ 保証人が法人ではない
そして、提供が義務付けられる「一定の情報」は以下のとおりです。
(1) 財産及び収支の状況
(2) 主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
(3) 主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
情報提供義務が課される場面と、提供が義務付けられる情報の内容から明らかなとおり、この情報提供義務は、保証人となろうとする者に対して、保証人となるか否かについて十分な情報を提供することが目的です。
2. ペナルティ
この情報提供義務を怠り、かつ一定の要件を満たした場合、保証人は保証契約を取り消すことができます。この、保証人に対する保証契約の取消権付与という効果は、債権者にとって非常に重要な影響を及ぼします。そこで、債権者の立場から見た場合にどのような対処が必要か、見ていきましょう。
まず、保証契約の取消権が付与されるのは、以下の要件をすべて満たした場合です。
㋐ 主債務者が保証人に対する情報提供を怠ったこと(虚偽の情報を提供した場合を含みます)
㋑ 保証人が賃借人の資力等について誤認
㋒ それによって(連帯)保証契約を締結
㋓ 主債務者がその事項に関して情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したことを債権者が知りまたは知ることができたとき
㋐ないし㋒の要件については、主債務者と保証人側の事情ですので、債権者が関与できる程度は限定的です。したがって、債権者としては㋓の要件を満たさないような措置を取る必要があります。具体的には、主債務者が保証人となろうとする者に対して情報提供を行ったことの表明保証を保証人から得ておくなどです。
第3 極度額の設定義務
1. 極度額の設定を要する場面とペナルティ
改正前民法では、極度額を定める必要があるのは、保証人が法人ではない場合で、貸金等債務を主債務とする(あるいは含む)場合に限定されていました。しかし、改正民法では、保証人が法人ではない場合、主債務の性質にかかわらず、保証契約において極度額を設定する必要があり、これを怠ると保証契約が無効となります。上記第2の保証契約締結時の情報提供義務と同様、債権者にとって非常に重大な影響を及ぼす改正となります。
なお、極度額については、その額が主債務の内容等との関係であまりに過大である場合、実質的に極度額を定めてないものとして、結局、保証契約が無効になることも考えられます。極度額の設定については慎重に対応する必要があります。
なお、極度額については、その額が主債務の内容等との関係であまりに過大である場合、実質的に極度額を定めてないものとして、結局、保証契約が無効になることも考えられます。極度額の設定については慎重に対応する必要があります。
2. 施行日後の保証契約の更新との関係
この極度額についての改正民法の規定は、施行日(令和2年4月1日)後に締結される保証契約に関して適用されます。しかし、施行日よりも前に締結された保証契約に関して、施行日後にその保証契約が更新される場合は改正民法が適用されると考えられます。したがって、施行日よりも前に締結された保証契約であっても、施行日後に保証契約が更新される場合は、保証人が法人でない限り、極度額の設定が必要になります。
実務的には、保証契約の更新となるのか否か、つまり極度額設定の要否を判断することになります。また、施行日前であってもあらかじめ極度額を設定するという対応も考えられます。
第4 まとめ
以上の他、保証分野では、貸金等債務を主債務とする場合(または主債務に含む場合、保証契約の締結前1か月以内に、公正証書により保証意思を宣明しないと保証契約が無効になる改正、保証契約締結後に保証人から請求があった場合に、主債務の残額等の情報開示義務を債権者に課す改正、主債務について期限の利益が失われた際に、保証人に対する通知義務を債権者に課す改正などが行われました。
本コラムで紹介したものも含め、これらの改正については債権者に非常に重要な影響を及ぼすものもありますので、債権者としては対応策を用意する必要があります。
本コラムで紹介したものも含め、これらの改正については債権者に非常に重要な影響を及ぼすものもありますので、債権者としては対応策を用意する必要があります。