COVID-19(新型コロナウイルス感染症)に関するQ&A

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当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。

社会に深刻な影響を及ぼす新型コロナウイルス感染症により、企業活動にも多大な影響が生じております。

当事務所は、この難局を打破する一助となるべく、新型コロナウイルス感染症に関する法的問題について、Q&A方式で解説致します。


担当弁護士

浅岡知俊弁護士、清水修弁護士、関善輝弁護士、竹内康真弁護士

契約


①新型コロナウイルス感染症の影響を考慮した契約書の留意点について
今後契約条項を作成する上では、今回の新型コロナウイルス感染症の影響によって生じた様々な不都合・経験・法解釈上の議論等を踏まえておく必要があります。
その中でも特に、不可抗力条項については留意が必要です。不可抗力条項は、外部から来る事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないもの(不可抗力)によって債務の履行ができない場合に、免責等債務を免除する一定の効果を定める規定です。この不可抗力条項は、「地震、豪雨、洪水、噴火」等の例示列挙事由を挙げたのちに、「その他不可抗力の事由が生じた場合には」というその他の事象を網羅的に捕捉する包括条項を設けるのが一般的です。当該包括条項に、新型コロナウイルス感染症の影響による債務の不履行が含まれると解釈されれば問題はありませんが、例示されている「地震、豪雨、洪水、噴火」等とは性質が異なるとして否定的に解される可能性もあります。このような解釈上の疑義が生じないよう、今後は、不可抗力条項中の例示列挙事由に、「感染症」や「疫病」という文言を挿入することが考えられます。
もっとも、単に「感染症」との文言を既存の不可抗力条項に追記したのみでは、新型コロナウイルス感染症の影響がどの程度契約に影響した場合に不可抗力とするか不明確であり、予測可能性が担保できないという問題も生じえます。そこで例えば、一般的な不可抗力条項とは切り離し、新たに独立した感染症条項を作成した上で、「一方又は双方の当事者の従業員に、新型コロナウイルス感染症の感染が確認され、予定された履行期に当該契約上の債務の履行を行うことにより新型コロナウイルス感染症の感染拡大が生じる現実的危険が認められる場合には、これに起因する債務不履行に関して債務者はその責任を免れる。」等新型コロナウイルス感染拡大の経験を踏まえて具体的に予測されるケースを押さえた条項を作成することによって、予測可能性を担保することが考えられます。


②新型コロナウイルス感染症以外の未知の感染症による影響を考慮した契約書の留意点について
この場合についても、基本的には、上記と同様の方針で契約条項を作成することとなります。
もっとも、①と異なり未知の感染症については具体的な場合を想定することが難しいため、ある程度一般的な文言を用いて契約条項を作成することとなります。その場合であっても、予測可能性を担保するために、今般の新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえて、想定可能な範囲でできるだけ具体的な契約文言とすることが望ましいです。例えば、不可抗力条項の例示として「感染症(感染症法6条8項の「指定感染症」に指定された感染症に限る。)」という文言を入れた条項を作成することなどが考えられます。


利用代金の返還の可否は、契約の内容によって個別に判断されます。したがって、契約内容を確認する必要があります。
①新型コロナウイルス感染症感染拡大に基づくイベント中止に関する取扱いの規定がある場合
ⅰ例示列挙事由に「感染症」等新型コロナウイルス感染症に基づく中止が不可抗力として取り扱われることが明示されている場合
この場合には、不可抗力条項を確認する必要があるかと考えられます。不可抗力条項の例示列挙事由に、「感染症」等の新型コロナウイルス感染症感染拡大に基づくイベント中止を不可抗力事由として含めるような文言があれば、不可抗力条項にしたがって処理されます。なお、不可抗力事由に該当するとしても、その効果は契約ごとに異なるため、契約内容を確認する必要があります。
ⅱ例示列挙事由に「感染症」等新型コロナウイルス感染症に基づく中止が不可抗力として取り扱われることが明示されていない場合
一方、明示的文言がない場合には、包括条項(Q1参照)に含まれるか否かによって判断されます。包括条項は、例示列挙事由を挙げた後に記載されるため、一般的には例示列挙事由類似のものが含まれると考えられています。そうすると、例示列挙事由に「地震、豪雨、洪水、噴火」等の天災が記載されており、その後に包括条項が記載されていた場合には、当該包括条項は「自然災害」(被災者生活再建支援法2条1号)類似の事由が想定されているといえ、疫病等の新型コロナウイルス感染症による事由は含まれないとされる可能性も十分あります。この場合には、後述のとおり、民法の規定によって判断されることとなります。


➁新型コロナウイルス感染症感染拡大に基づくイベント中止に関する取扱いの規定がない場合
この場合には、民法の規定に従って判断されることとなります。イベントの開催がイベントの自粛要請等によって社会通念に照らして不能と判断された場合には、両当事者の帰責事由なく履行不能となったといえるため、イベントスペース管理者は反対給付(イベントスペース料金の支払い)を受ける権利を有さず(旧民法536条1項)または反対給付を請求することができなくなります(新民法536条1項)。なお、新民法が適用される場合、通常イベント利用代金の支払いは先払いであることが多いため、法定解除権(新民法542条1項、2項)によって契約を解除してから代金の返還を求めることとなります。


①新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって中止になった場合の措置について規定があった場合
イベントが新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって中止になった場合の取扱いが契約書中に記載されている場合には、その定めによることとなります。その際、不可抗力条項の解釈について留意すべき点は、Q2と同様です。
もっとも、いかなる事由が生じても一切チケット代金の返還を認めない等消費者の利益を一方的に害する旨の記載があった場合、消費者契約法10条に基づいて無効となる可能性があります。したがって、そのような記載があったとしても、必ず返金を求めることができなくなるものではないため、注意が必要です。


②新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって中止になった場合の措置について規定がなかった場合
イベントが不可抗力によって中止した際の返金等について規定がなかった場合には、民法の適用によって結論が決まることとなります。イベントの開催が社会通念に照らして不能と判断された場合には、両当事者の帰責事由なく履行不能となったといえるため、イベント主催者は反対給付(チケット料金の支払い)を受ける権利を有さず(旧民法536条1項)または反対給付を請求することができなくなります(新民法536条1項)。なお、新民法が適用される場合、イベントに参加する際のチケット販売契約においてはチケット料金は先払いであることが多いため、法定解除権(新民法542条1項、2項)によって契約を解除してから代金の返還を求めることとなります。


①宿泊予定者がキャンセルした際の取扱いが契約中に規定されている場合
宿泊予定者がキャンセルした際の取扱いは、当該契約の規定に従うこととなります。
不可抗力条項が定められている場合には、当該条項の適用による免責が認められるかをまず検討することになります。
次に、不可抗力条項による免責が認められず、キャンセル料の支払いに関する規定がある場合は、解約時の損害賠償額について事前に合意している以上、少なくとも約款上はキャンセル料を支払わなければならないことになります。
もっとも、当該施設のキャンセル規定が厳格で、1週間前の取り消しであるにもかかわらず、全額支払わなければならないような規定がある場合もあります。このような場合は、返金額が宿泊予定日に比して過大であると解され、同一事業者が締結する多数の同種事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害(消費者契約法9条)に限定される可能性もあります。現に、大学のラグビーチームの宿泊予定者の一部に新型インフルエンザ罹患者が出たことを理由として宿泊前日に予約を取り消した事案で、損害額が契約書に規定された全額ではなく平均的損害に限られる旨判示した裁判例もあります(東京地裁平成23年11月17日判タ1380号235頁参照)。


②宿泊予定者がキャンセルした際の取扱いが契約中に規定されていない場合
この場合には、事前に損害賠償額の取り決めをしていない以上、債務不履行の一般的な規定に従い、施設側は宿泊予定者の責めに帰すべき事由によるキャンセルである主張してキャンセル料の支払いを求めることとなります。その際、施設側が損害賠償請求をするためには、宿泊予定者の帰責性、施設側の被った実損害等を立証しなければなりません。ただ、昨今は施設側においてキャンセル規定を明示しているのが一般的であるところ、そのような規定や説明もないため、宿泊予定者の予測可能性が担保されていない中で、施設側が実損害を請求することは容易ではないものと思われます。


旅行業者との間でツアー契約をしている場合には、標準旅行業約款を利用している場合が通常です。
同約款では、「天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の事由が生じた場合において、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいとき。 」にはキャンセル料の支払いが免責されるとの不可抗力条項が規定されています。例えば行政から県を跨いだ移動を自粛するよう要請されている状態が、「官公署の命令その他の事由」と評価できれば、上記規定に該当し支払いが免責されることになります。
他方、上記条項に該当しない場合には、約款上定められたキャンセル料の支払いをしなければならないものと考えられます。なお、この場合には、標準旅行業約款に規定されているキャンセル料を平均的損害に限定するべきであるという主張は認められ難いものと考えられます。なぜなら、標準旅行業約款は業界の平均的取扱いを前提として消費者契約法第9条1号の「平均的な損害」の内容を一般的に定めたものと解されるからです(東京地裁平成23年7月28日判タ1374号163頁参照)。


①解除できる賃料の滞納期間の目安について
賃借人である借主は、貸主に対して賃料を支払う義務を負っています。もっとも、判例上、当事者の信頼関係の上に成り立っている賃貸借契約については、契約当事者の信頼関係が破壊されない限りは、解除権は発生しないとされています。実務上、信頼関係の破壊を判断する上でメルクマールとされている期間は、家賃三ヶ月程度の滞納であると考えられています。


②3ヶ月の賃料滞納があった場合について
三ヶ月の滞納があったとしても、不払いの前後の事情・利用状況・賃借人の態度等諸事情に照らして信頼関係が破壊されていなければ、賃貸借契約は解除されません。
昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けた外出自粛要請、営業自粛要請及び緊急事態宣言等によって、大幅な減収に至り賃料を支払えない企業も多いかと思います。このような未曾有の事態により減収し滞納賃料額が三ヶ月に達していたとしても、休業等による減収で賃料が支払えないこと、緊急事態宣言が解除され営業を再開した際には分割等何らかの方法で滞納分の家賃を支払うこと等諸般の事情を借主が貸主に対して誠実に説明していた等の事情が存在すれば、直ちに信頼関係が破壊されたと評価することは難しいと考えられます。そうすると、緊急事態宣言中の三ヶ月の賃料滞納をもって賃貸借契約を解除できる可能性は、賃借人が誠実な対応をしている限りにおいては、平常時と比べて低いと考えられます。

労務


会社都合で休業した場合には、労働基準法26条で少なくとも平均賃金の60%(休業手当)の支払義務が発生します。もっとも、同条では「使用者の責に帰すべき事由」による休業ではない場合には休業手当の支払義務は発生しません。そして、不可抗力による休業は、「使用者の責に帰すべき事由」による休業にはあたりません。

不可抗力による休業と認められるためには、①その原因が事業の外部により発生した事故であること、②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であることが必要とされています(*)。

緊急事態宣言に伴い、都道府県知事から休業要請を受けた場合、当該要請を受けた施設での勤務のために雇用している従業員に関しては、他の業務に従事させることが可能であれば②を満たさず、休業手当を支払う必要があることもありますが、多くの場合、①及び②を満たし、休業手当を支払う義務はないと考えられます。

 

*厚生労働省新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)4の問1
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1


①従業員が新型コロナ感染症の感染者である場合
会社都合で従業員に対し休業を命じた場合には、労働基準法26条に基づいて少なくとも平均賃金の60%の支払義務が生じます。もっとも、従業員が新型コロナウイルス感染症に感染した場合には、当該従業員は勤務できる健康状態でなく休業していると考えられ、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とはいえません。したがって、休業手当を支払う義務は生じないといえます。


➁新型コロナウイルス感染症の感染疑いがある場合
新型コロナウイルス感染症への感染が合理的に疑われる状態であれば、社会通念上、勤務できる健康状態ではないといえ、原則的には休業手当を支払う必要はないと考えられます。具体的には、帰国者・接触者相談センターへの問い合わせが求められる以下の(1)ないし(3)のいずれかに該当する場合です(以下の基準は令和2年5月8日に厚生労働省が発表したものです(*)。)。
(1)息苦しさ、強いだるさ、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
(2)高齢者や糖尿病等の基礎疾患がある人で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
(3)発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
もっとも、帰国者・接触者相談センターでの相談結果を踏まえて、勤務の継続が可能であるにもかかわらず休業を命じる場合は、会社都合による休業になりますので、休業手当の支払が必要になります。

 

*厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html


①整理解雇
新型コロナウイルス感染症の影響で、経営状況が悪化した場合、従業員を解雇せざるを得ない場合があります。このような解雇を整理解雇といいますが、整理解雇は常に有効となるわけではありません。整理解雇の有効性は、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力、(3)人選の合理性、(4)手続の相当性の事情を総合的に考慮して判断されます。
整理解雇の有効性は、以上の基準に従って判断されますが、緊急事態宣言に伴い、休業が要請された施設に勤務する従業員については、(1)の人員削減の必要性が満たされることも事実上多いと思われます。もっとも、その際も、会社が運営する他の施設や他の事業に配置換えすることが可能か、新型コロナウイルス感染症対策の様々な助成金の受給を受けたか、希望退職者の募集を行ったか、仮に解雇するにしても人選は合理的かなど、考慮する必要がある点が複数あります。解雇する場合、以上の点に加えてその手続きについても問題となりますので((4))、慎重に進める必要があります。


➁一時解雇(レイオフ)
米国等には、業績悪化によって整理解雇した後、業績が回復した場合に優先して再雇用する一時解雇(レイオフ)という雇用調整の方法があります。他方、日本には法律上一時解雇という制度はありません。もし日本において、解雇する従業員を業績の回復後に再度雇用することを確保したいのであれば、整理解雇の際に再雇用の約束をすることが考えられます。しかし、現状の失業保険制度の運用では、再雇用の約束をすると、雇用保険における失業給付を受ける条件を満たさないことになるとされているため、再雇用の約束は従業員にとって大きなデメリットがあることは否定できません。
失業給付を受給できるようにしつつ人材の流出を一定程度防止する方策としては、再雇用の約束はせずに、業績が回復して従業員を募集する際に、解雇した従業員に対して優先的に募集要項を通知することなどが考えられます。
なお、過去、東日本大震災などの災害時には、みなし失業制度の適用により、再雇用の約束をしていても失業給付を受給することができました。今回の新型コロナウイルス感染症に関して、現時点で同制度の適用があるとはされていません。しかし、仮に同制度の適用がなされ、再雇用の約束をしても失業給付を受給できるようになれば、上記の問題点も解消されることになります。この場合には、整理解雇の際に再雇用の約束をすることが実質的な一時解雇制度として機能し、人材流出を防止できる場合もあると思われます。


判例上、いわゆる採用内定者と会社との間には始期付解約権留保付の労働契約が締結されていると解されており、採用内定者の内定取消は従業員の整理解雇に準じて判断する必要があります。そうすると、①人員削減の必要性、②内定取消回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性の事情を総合的に考慮して個別具体的に判断する必要があります。ただし、内定取消しと従業員の整理解雇がまったく同等の厳格さで判断されるというわけではなく、内定取消しを行わなければ従業員の整理解雇が避けられないような状況であれば、内定を取り消すことも許容される場合が十分にあり得ます。


新型コロナに関する緊急事態宣言により会社の経営状況が悪化した場合、上記①の人員削減の必要性が高まることも多いと思われます。このような場合に、内定取消しを行わなければ従業員の整理解雇が避けられないのであれば、従業員の雇用を維持しつつ、それ以上の人員増加を避けるために内定を取り消すことは、適正な手続き(内定取消の理由を説明するなど誠実に対応すること)を履践する限り、基本的には有効であると考えられます。


従業員の都合で労務の提供がされなかった場合には、ノーワークノーペイの原則が適用されるため、賃金及び休業手当の支払の必要はありません。

一方、従業員が年次有給休暇の取得を請求してきた場合、年次有給休暇は原則的には労働者の請求する時季に与えなければならないので、これを経営者の一方的な判断で年次有給休暇の取得を認めないことはできません。

なお、この点に関連して、小学校の休校等で会社を休まざるを得ない従業員に対して特別の有給休暇を与えた企業に助成金を支払う制度が創設されました。しかし、今後の議論により変更はあり得るものの、少なくとも現時点ではこの助成金の利用は義務ではないとされています。よって、従業員が特別の有給休暇の取得を求めたとしても、特別の有給休暇を与えることは、法律上は必ずしも必要ではありません。

株主総会


定款の定めによって取扱いが異なります。以下で場合分けして説明します。

①定時株主総会の開催時期について定款の定めがない場合

定款に定めがない場合には、会社法上の規定によって決定されます。そこで、会社法によれば定時株主総会は、「毎事業年度の終了後一定の時期」(会社法296条1項)に召集することが求められているため、延期は可能です。


➁定時株主総会の開催時期について定款の定めがある場合

日本の企業の多くは、定款に「毎事業年度の終了後三ヶ月以内に召集する」としており、原則的には当該期間に株主総会を招集し、開催する必要があります。もっとも、天災等により当初予定した時期に定時株主総会が開催できない状況が生じた場合にまで、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することが求められるものではなく、その状況が解消された後合理的期間内に開催されれば足りるとされています。この見解に従えば、定款に定時株主総会の開催時期について定めがある場合であっても、延期することができると考えられます(*)。

 

*法務省「定時株主総会の開催について」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html


株主の権利行使に関して定款等に特段の定めがない場合、定時株主総会の日に株主名簿に記載または記録されている株主に議決権の行使を認めることとなります。
他方、会社法上、会社は、事務取扱の便宜の観点から、一定の日(基準日)を定めて、基準日において株主名簿に記載または記録されている株主(基準日株主)をその権利を行使することができる者と定めることができるとされています(会社法124条1項)。基準日を定めている場合は、原則として、その基準日において株主名簿に記載または記録されている株主が議決権を行使できます。
ただし、基準日株主が行使できる権利は、当該基準日から三ヶ月以内に行使できるものに限られているため(会社法124条2項)、基準日から三ヶ月を超えて定時株主総会を開催する場合には、別途基準日を設けない限り、定時株主総会の日に株主名簿に記載または記録されている株主に議決権を認める必要があります。そこで、基準日から三ヶ月を超える時期に定時株主総会を開催する場合には、事務取扱の便宜の観点から別途基準日を設けることが望ましいです。この場合には、当該基準日において株主名簿に記載または記録等されている株主に議決権行使を認めることとなります。
なお、取締役会設置会社の場合の基準日を定める手続きは、取締役会の決議によって(会社法362条4項柱書)新たに議決権行使のための基準日を定め(会社法124条1項)、当該基準日の二週間前までに当該基準日に行使できる権利の内容を公告する必要(会社法124条3項本文)があります。


基準日制度とは、Q2で述べたものであるところ、剰余金を受ける権利も株主権であるため、基準日を設定することによって権利者を画一的に確定することができます。そのため、定時株主総会を延期した場合の取扱いについても、Q2と同様のものとなります。
すなわち、定時株主総会を延期したとしても、開催日が既定の基準日から三ヶ月以内であれば、当該基準日の日に株主名簿に記載または記録されている株主に配当をすることになります。また、既定の基準日から三ヶ月を超える場合には、別途新たに基準日を設定しない限り、配当を決議した定時株主総会時点の株主名簿に記載または記録されている株主に対して配当をすることになります。基準日を定める手続きは、Q2同様取締役会の決議によって定め、当該基準日の二週間前までに公告する必要があります。一方、基準日の定めがない場合には、株主総会の決議をした日における株主名簿記載の株主が、剰余金の配当を受ける株主となります。
*なお、剰余金配当については、一定の要件を満たせば、取締役会の決議でも配当を決定することができますが、大きく異なることはないため、上記回答においては株主総会で剰余金配当を決定する会社を想定しています。


インターネット回線等を用いて、遠隔で株主総会に参加又は出席することができる方法が経済産業省(*1及び*2)で紹介されています。その内容は概ね以下のとおりとなります。

①ハイブリッド参加型バーチャル株主総会について
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、遠隔地に所在する等の事情、現実に開催されている株主総会の場に所在しない株主が、webサイト等で配信される中継動画を傍聴するような形態の株主総会です。株主はインターネットで株主総会を傍聴しているのみであり、株主総会に「出席」しているとはいえないため、質問(会社法314条)や動議(会社法304条)をすることはできず、当日の議決権行使もできません。そのため、招集通知等で傍聴の案内をする場合には、議決権の事前行使をするよう促す必要があります。

➁ハイブリッド出席型バーチャル株主総会について
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、遠隔地に所在する等の事情、現実に開催されている株主総会の場に所在しない株主が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、現実に開催されている株主総会に出席している株主と共に審議に参加した上、株主総会における決議にも加わるような形態が想定されています。現行の会社法上の解釈において、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることを前提として、出席型による開催が許容されています。
当該開催方法には、①情報伝達の双方向性と即時性が確保できる環境整備に関する問題、➁株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係、③質問・動議の取り扱い等固有の問題を孕んでいるため、開催するには専門的な助言のもと瑕疵のない株主総会実施のため準備する必要があります。

 

経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf
経済産業省「概要資料」
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-1.pdf


テレビ会議等で参加可能な場合には、テレビ会議等で出席しそのまま議長になる方法も考えられます。

また、適正な代替手段がない場合には議長代行者を選任する方法が考えられます。会社の定款には、株主総会の議長の定めと同時に議長に事故があった場合の定めがあることが通常です。そのため、議長が株主総会の会場に来ることができないことをもって、株主総会の議長となるべき者に「事故があるとき」に該当すると考えた場合には、予め定められた議長の代行順位等の規定に従って、別の者が議長に就任することになります。


取締役会の議事録については、出席取締役等の署名押印が求められています(会社法369条3項)。もっとも、取締役会で代表取締役が選任されて、選任登記をする場合等登記申請の添付書類となる場合(商業登記法46条2項、商業登記法施行規則61条6項3号)には、実印である必要がありますが、それ以外の場合には実印である必要はありません。そのため、海外にいる取締役に対して議事録の内容を確認してもらい、取締役の了承の下押印代行者が押印する取扱いをしても問題ありません。

個人情報


新型コロナウイルス感染症の病歴や、医師による新型コロナウイルス感染症の検査結果は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します(個人情報保護法2条3項、施行令第2条2号、3号)。要配慮個人情報を取得するにあたっては、原則として、利用目的の通知又は公表をし(個人情報保護法18条1項)、あらかじめ本人の同意を得なければなリません。(個人情報保護法17条2項柱書)。
もっとも、人の生命、身体又は財産の保護のために必要があり、本人の同意を得ることが困難である場合(個人情報保護法17条2項2号)、公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要があり、本人の同意を得ることが困難である場合(同3号)等には、例外的に本人の同意を得ないで検査結果を取得することができます。例えば、従業員に新型コロナウイルス感染症の症状がみられるため検査を命じたところ、当該従業員との連絡が途絶え、会社が同意を得ることができなくなった場合には、早急に検査結果を取得して社内の二次感染防止の対策等をとり、従業員の生命を保護し、または、社内の公衆衛生を向上する必要が強く認められるため、2号又は3号の例外事由に該当する可能性が高いといえます。
ただし、上記例外規定は、本人の同意を得ることが困難であるという稀有な場合にのみ適用されるものとなります。予防法務の観点からは、従業員が検査結果の提出を拒むこと等も考えられますので、検査を命じる場合にはあらかじめ同意を得ておくことが望ましいです。
なお、本人から雇用主に対して直接情報提供がなされた場合には、同意があったものと解されます(*)。

 

*個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines01.pdf


従業員の家族に関する感染情報も、従業員本人の病歴同様に「要配慮個人情報」に該当することから、あらかじめ従業員の家族の同意を得てから情報を取得する必要があります。

もっとも、会社は、実際には従業員から家族の情報を取得することとなると思われます。この場合、従業員が家族から必要な同意を得ていることが前提となる行為なので、別途雇用主が家族に対して個人情報取得の同意を得る必要はありません(*)。

 

*個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines01.pdf


①検温について

体温そのものは、その情報に基づき特定の個人を識別できるものではないため、個人情報に該当しないものと考えられます。
したがって、個人を特定しない方法で検温を行うことは、個人情報保護法上の問題はないものと思料されます。
なお、上記結論は、サーモグラフィーによる検温でも同様と考えられますが、同時に顔画像の撮影・録画などを伴う場合には、②の問題が生じます。


②顔画像のビデオ撮影・録画について

顔画像のビデオ撮影・録画は、個人情報の取得に該当します。
このように個人情報を取得する場合、原則として利用目的を本人に通知し、又は公表する必要があります(個人情報保護法18条1項)。もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染の疑いを判別するため、施設入口で検温とともにビデオ撮影・録画をすることは、感染拡大防止目的のためにのみ撮影するもので、「取得の状況からみて利用目的が明らか」(法第 18条第4項第4号)であることから、例外的に利用目的の通知・公表は不要と解されます(*)。
一般的には上記のとおりですが、あくまで解釈論であることから、慎重を期するため、新型コロナウイルス感染拡大防止を目的として検温及びビデオ撮影・録画をしている旨掲示板等で明示するなどの措置を講じることが望ましいものと考えられます。


③ アンケートについて

入館者に対して、氏名等の個人情報を記載させて、感染者との濃厚接触の有無や海外渡航歴を記載させるアンケートを取ることは、個人情報の取得に該当します。このように書面に記載させる方法により個人情報を取得する場合、あらかじめ、入館者に対し利用目的を明示する必要があります(個人情報保護法18条2項)。したがって、アンケート案内用紙に、利用目的を明確に特定の上、記載しておく必要があります。
他方、アンケートで取得した「個人情報」が、その後データベース化された場合、係る情報は「個人データ」となります。これを第三者に提供する場合は、提供時までに別途本人の同意を得ることが必要となります。そこで、第三者への提供があらかじめ想定される場合には、個人情報の取得時に個人データの第三者提供に関する同意を得ておく方が簡便です。

 

*個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/1911_APPI_QA.pdf


1 原則
本件のような第三者への情報の「提供」が問題となる場面では、情報の「取得」と異なり主に従業員の「個人データ」の取扱いが問題となります。その理由は、従業員から入社時等に取得した個人情報は、通常、会社において、ファイリングやデータベース化等の方法により、容易に情報を検索できるよう体系的に整理されていると思われますが、感染者情報を提供する際には、これらの整理されている従業員の「個人データ」に該当する情報を併せて提供することになるためです。
そして、「個人データ」には、「個人情報」とは異なる規制がされます。具体的には、当該社員の個人データを、取得当初特定した利用目的とは異なる目的で利用すること(個人情報保護法16条1項)、および、本人の同意なく第三者に提供することは禁止されています(個人情報保護法23条1項)。
もっとも、以下に記載するとおり、例外として、本人の同意を得ることなく、目的外利用や第三者への提供が許される場合があります。

 

2 例外

人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合、または、公衆衛生の向上のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときは、個人情報取扱事業者は、本人の同意なく、個人データを目的外に利用し、又は国の機関を含む第三者に提供することができます(個人情報保護法第16条第3項第2号及び第3号、第23条第1項第2号及び第3号)。

例えば、会社の事業所等が入居しているビル管理会社への情報提供は、集団感染防止の観点からビル全体の閉館という感染拡大防止策を行うか否かの判断の前提となるものであり、上記例外に該当する可能性が高いものと考えられます。また、当該社員と発症前後二週間程度の期間に濃厚接触した疑いのある取引先等の第三者に情報提供することは感染拡大防止の観点から必要であることから、上記例外に該当する可能性が高いものと考えられます(*)。

 

*個人情報保護委員会「(別紙)個人情報保護法相談ダイヤルに多く寄せられている質問に関する回答」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/200515_2.pdf


感染者の個人データを含む情報を「第三者に提供する」場合には、原則として本人の同意が必要となります(個人情報保護法16条1項、23条1項)。もっとも、同一事業内で個人データに該当する情報を共有する場合には、「第三者に提供する」場合ではないので、事前の本人の同意は不要です(*)。
他方、個人データを取り扱う場合であっても、当該情報の内容自体は個人情報なので、個人情報の利用目的の規制を受けます。具体的には、提供する個人情報を取得する際特定した利用目的に社内共有の目的が含まれていない場合には、別途利用目的を逸脱して個人情報を利用する同意を得る必要があります(個人情報保護法16条1項)。もっとも、当該事業者内での二次感染防止や事業継続のために必要があり、本人の同意を得ることが困難な場合には、例外的に、本人の同意は不要です(*)。
なお、別途プライバシー権侵害の可能性を考慮して、共有する情報の範囲・内容・程度を可能な限り限定するなどして、必要最小限度の情報開示に留めることが望ましいものと思われます。

 

*個人情報保護委員会「(別紙)個人情報保護法相談ダイヤルに多く寄せられている質問に関する回答」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/200515_2.pdf

事業再生


金融機関から融資を受ける手段としては、主として①日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付、②商工中金の危機対応融資、③民間金融機関による信用保証協会の保証付融資、④その他融資があります。

①新型コロナウイルス感染症特別貸付及び②危機対応融資の制度は、いずれも売上高が対前年(又は前々年。以下同じ。)比5%以上減少した場合に、担保を提供しなくても、3億円を上限とし、返済期間15年以内の融資を受けることができる制度です。また、全く借入金元本を返済しない期間(いわゆる据置期間)を最大5年間設けてもらうことも可能です。

③民間金融機関による信用保証協会の保証付き融資は、信用保証協会の保証による中小企業の信用力補完のもと、民間金融機関が融資をする制度です。今般の特例としては、売上高の減少割合に応じて、信用保証協会が借入債務の80%又は100%を保証するセーフティネット保証の制度があります。この制度の下では、最大2.8億円まで保証付き融資を受けることが可能ですが、売上高が対前年比15%以上減少している場合には、さらにプラスして2.8億円までの保証付き融資を受けることが可能です(危機対応保証)。

その他、④生活衛生事業者に特有の融資など各種業態に応じて用意されている緊急融資制度や地方自治体独自の制度などもあります。
資金繰り支援策の詳細については経済産業省のパンフレット(*)に記載されていますが、その他監督官庁や地方自治体の情報を調べることも重要です。

 

*経済産業省「新型コロナウイルス感染症で 影響を受ける事業者の皆様へ」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf


支払先へ支払いの猶予を求める場合には、どこに何をどの順番で猶予を求めるのかなど、慎重な検討が必要です。

例えば、人件費の支払いを止めてしまうと、従業員の協力が得られず、会社を運営することができなくなってしまいます。また、取引先への支払を止めてしまうと、次回の仕入れなどが困難になり取引に支障を来します。加えて、支払いが止まったという事実が業者間を通じて広まってしまうおそれもあります。

他方で、一定の支払猶予を求めたとしても、直ちに事業継続に大きな影響のない債務もあり、このような債務の支払猶予を要請する方法があります。その方法としては、①金融機関に対する借入金の返済猶予、②税金や社会保険料の納税猶予、③電気、ガス等公共料金の支払猶予、④テナント賃料の猶予などが考えられます。

このうち、特に金融機関においては、我が国の金融という公共性の高い業務を取り扱う機関として、中小企業の事業運営に協力すべき本来的責務があるため、中小企業が借入金の支払猶予を求めた場合には、これに柔軟に対応することが求められております。更に、今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響下においては、政府が金融機関に対して、「既往債務について、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予などの条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること」(*)を要請しており、通常時における対応をより一層強化するよう呼びかけています。そこで、まずは、取引先金融機関又は政府系金融機関に借入金の返済猶予を相談することが重要となります。

 

*財務省「新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援について」 (麻生財務大臣兼金融担当大臣談話) 
https://www.mof.go.jp/financial_system/fiscal_finance/torikumi/corona-danwa.html


各種事業再生手法を検討すべきです。

事業再生とは、会社を清算するのではなく、会社の事業を生かし、再建させることによって事業継続を図ることをいいます。事業再生には、①裁判所が手続きの主宰者として関与する民事再生などの法的再生手続と、②法的再生手続によらずに、金融機関その他の関係者との交渉のみによって、事業継続を図る私的再生手続があります。

①民事再生手続などの法的再生手続を利用した場合、その事実が公表されてしまい、事業が毀損し、風評被害などにより売り上げが立たなくなってしまう可能性もあり、その利用には慎重を期します。他方で、②私的再生手続においては、主に金融機関のみを対象として交渉するため、事業再生中であることは外部に公表されず、取引に支障を来すことなく、再生を目指すことが可能である点が最大のメリットです。したがって、②私的再生手続が可能である場合には、これを目指すべきです。

もっとも、近時私的再生手続を一定の組織の関与のもと、定められた規則に則って進める準則型私的整理手続(事業再生ADR、REVIC支援スキーム、中小企業再生支援協議会スキーム等)が利用されております。今般、中小企業再生支援協議会においては、新型コロナウイルス感染症特例リスケジュールという制度を設けており(*)、金融機関調整や制度利用費用の負担軽減措置が準備されているので、この制度の利活用も重要となります。

 

*経済産業省「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2020/200406saisei.html


このような場合には、代表取締役社長個人についても破産手続が行われることが一般的です。破産手続では、個人の生活に最低限度必要な99万円までの財産(自由財産)を除いた資産は、原則として換価、処分の対象となってしまうため、自宅などを残すことができないのが通常です。

もっとも、「経営者保証に関するガイドライン」(*)と呼ばれる制度を利用することで、破産手続よりもより多くの資産を残しつつ、連帯保証債務を免れることのできる場合もあります。具体的には、代表取締役社長の一定の生活費等(自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることを許容したまま、連帯保証債務の免除に応じてもらえる場合があるのです。

この制度を利用するためには、中小企業の経営者が、早期に事業再生に着手する決断をしたことによって、金融機関にとっても一定の利益が認められることが必要です。経営者が、個人破産をおそれるあまり大幅な赤字経営を続けた結果、手元資金が枯渇し、会社を破産させる費用すら支出できない状態になるよりは、早期の事業再生・廃業の決断を促した方が、金融機関にとっても適切であるとの考えに基づきこのような制度が設けられているのです。

 

*全国銀行協会「経営者保証ガイドライン」
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/


会社の現在の資金状況如何で利用可能な清算制度が異なります。会社の清算制度としては、通常清算手続、特別清算手続、破産があります。

通常清算手続とは、法人が合併または破産以外の事由により解散し、解散後、資産を換価し、一方において債務を弁済し、余った残余財産を株主に対して分配する制度です。債務超過の状況にない法人が行う一般的な清算手続です。

次に、特別清算手続は、債務超過の疑いのある会社等が、裁判所の監督を受けつつ、従前の会社の社長等が主導して手続を進め、債権者との合意形成を基本として清算を進める手続です。裁判所の監督がある分、通常清算手続よりも厳格な手続ですが、裁判所の選任する破産管財人が全てを取り仕切ることになる破産手続よりも簡易迅速で自治的な手続であるといえます。

破産手続は、債務者が経済的に破綻して、その弁済能力をもっては、総債権者に債務を完済することができなくなった状態に対する法的手段として、強制的に破産会社の全財産を裁判所の選任する破産管財人が管理換価して、総債権者に公平な金銭的満足を与えることを目的とする裁判上の手続をいいます。破産手続は、社会経済に与える影響が大きいため、最後の選択肢として利用される必要があります。

なお、会社を清算しない方法も当然あり得ます。後継者不在を理由として技術・ノウハウや人的・物的資源が失われてしまうことは社会的な損失でもあるため、一度はM&Aや事業承継ということを考えて頂くことも有益です。特に新型コロナウイルス感染症対策との関係では、経済産業省のパンフレット(*)に記載されている「経営資源引継ぎ・事業再編支援事業」という制度がありますので、この利用を検討するのも一つでしょう。

 

*経済産業省「新型コロナウイルス感染症で 影響を受ける事業者の皆様へ」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf