民法改正5つのポイントー②債権譲渡ー

改正前において債権譲渡の際に異議を留めない承諾を取得していた債権者の方、また将来債権譲渡を利用する債権者の方向けの記事です。


改正の影響がある企業
・債権譲渡を利用する企業、特に債権者(譲渡人、譲受人を問いません)
・債権譲渡登記ファイルを利用して将来債権譲渡を行う債権者(譲渡人、譲受人を問いません)

改正による具体的な影響
・現在の実務の取扱いを踏襲した場合、抗弁の切断が認められず、債務者から弁済、相殺等を主張されるおそれがあります。
・債権譲渡登記ファイルを利用して将来債権譲渡の第三者対抗要件を具備し、譲受債権を行使する直前に債務者対抗要件を具備する場合、債務者から弁済を拒絶される場合があります。


第1 債権譲渡に関する改正

債権譲渡については、譲渡制限特約付債権の譲渡も有効である旨の改正、「異議をとどめない承諾」制度の廃止、将来債権の譲渡に関する改正がなされました。これらの改正の内容と、実務上の対応について見ていきます。

第2 譲渡制限特約付債権の譲渡

改正前民法では、譲渡制限特約付債権の譲渡は原則として無効とされていました。しかし、中小企業が有する債権を売却することにより、中小企業の資金調達手段を増やす趣旨で、譲渡制限特約付債権であっても有効に譲渡が可能となりました。

もっとも、債権の譲受人が、譲渡制限特約の存在につき悪意または重過失がある場合、債務者は譲受人等に対する弁済を拒絶できます。なお、債務者が譲受人に対する弁済を拒絶する場合は、譲受人としては、譲渡人への弁済を催告し、それでも債務者が弁済をしなければ譲受人への弁済を請求できます。また、債務者が譲受人に対する弁済を拒絶し、譲渡人に対して弁済をする場合は、譲受人は譲渡人から回収することになります。その際、譲渡された債権が期限の定めのない債権であった場合に、どのように回収を行うかという問題が生じ得ます。

改正民法下における債権譲渡に関しては、譲受人の立場からすれば、以上を踏まえた債権譲渡契約の締結が必要になります。

第3 「異議をとどめない承諾」制度の廃止

改正前民法では、債権譲渡の際に、債務者から「異議をとどめない承諾」を取得することで、債務者が有していた抗弁(相殺など)を、債権の譲受人に対して主張できなくなるという制度がありました。この「異議をとどめない承諾」とは、具体的には特段の留保をつけずに承諾すればよく、異議をとどめないことを積極的に意思表示する必要はありませんでした。しかし、このような無留保承諾のみによって、抗弁が切断されるという重大な効果をもたらすことに批判があったため、改正民法ではこの「異議をとどめない承諾」制度が廃止されました。

ただし、改正民法下においても、債務者が抗弁を放棄する旨の意思表示をすれば、その意思表示は有効であり、結局は、「異議をとどめない承諾」を得た場合と同様の効果を得ることができると考えられます。もっとも、どの程度明確な意思表示(例えば、抗弁の内容を特定する必要があるのか)をすれば有効な放棄と認められるのかについては議論があります。実務的には、可能な限り抗弁の内容を特定したうえで放棄するといった対応になるでしょう。

第4 将来債権の譲渡

改正前民法でも将来債権譲渡の有効性は認められていましたが、将来債権の譲渡後に譲渡制限特約が付された場合の債権譲渡の有効性については議論がありました。改正民法では、この点の取り扱いが明確化されました。具体的には、債務者対抗要件が具備されるまでに譲渡制限特約が付された場合、債務者は譲受人等への弁済を拒絶できるというものです。

この規定に関しては、将来債権譲渡契約と債務者対抗要件の具備(債務者への通知か、または債務者からの承諾の取得)の間に時間的な隔絶がそれほどなければ、大きな問題は生じません。しかし、債権譲渡登記ファイルを利用して第三者対抗要件のみ具備し、債務者対抗要件はすぐには具備しないようなケースでは、この規定の適用があり得ることになります。したがって、将来債権譲渡についての契約を締結する場合も、この規定の適用があり得ることを前提にする必要があります。