民法改正5つのポイントー③定型約款ー

不特定多数向けに同一の約款の利用を予定している事業者の方向けに、定型約款の概念の説明や留意点を説明しています。


改正の影響がある企業
・下記サービス、商品の提供に伴い、画一的な約款を利用している企業
SaaS
ISP契約に基づくサービス
市販ソフトウェア
スマートフォン用アプリケーション
ECサイトでの物品売買
宿泊
旅客運送
宅配便運送
電気供給
消費者ローン
その他、不特定多数の取引相手に対して画一的な約款を提供している企業

改正による具体的な影響
・定型約款が無効になるおそれがあります。


第1 定型約款に関する改正

改正前民法では、約款についての定めは存在していませんでした。しかし、取引実務において約款が使用されている実態に合わせて、改正民法では約款についての定めが新設されました。ただし、実務において用いられている約款すべてについて、改正民法の適用があるわけではありません。改正民法では、「定型約款」という概念を定義し、これに当てはまる約款のみを対象とした規定が新設されました。

以下、「定型約款」の意義と、定型約款が有効になる要件、定型約款の変更が有効になる要件と、これらの改正に伴う実務上の対応について見ていきます。


第2 改正民法の適用がある「定型約款」の意義

改正民法において「定型約款」とは、定型取引に用いられる約款を指します。定型取引とは以下の要件をすべて満たすものです。


①    不特定多数の者を相手方として行う取引
②    取引の内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの


これらの要件からしますと、相手方の個性に着目した取引、例えば労働契約は①の要件を満たさず、定型取引に該当しません。また、ある事業者において多数の契約が画一的な内容で締結されている実態があるとしても、それが単に契約当事者間の交渉力の格差によるもので、当事者の一方にとっては取引内容が画一的であることに合理的理由がない場合は、②の要件を満たさず、定型取引に該当しません。
定型取引としては、市販のコンピュータソフトウェアのライセンス契約、インターネットバンキング契約などが挙げられます。
定型取引に該当するか否かについては、事前の検討が不可欠となりますので、疑問がある場合はあらかじめ弁護士にお問い合わせください。


第3 定型約款が有効となる要件と実務上の対応

改正民法では、以下のいずれかの場合に定型約款が有効となると定められています。


⑴  定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
⑵  定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき


上記⑴の場合は、定型約款を契約の内容とする合意があれば有効になり、定型約款の各条項を表示する必要はありません。


上記⑵の場合は、契約締結に先んじて表示する必要があります。また、「表示」については、他の約款と識別可能な程度に表示すれば足りると考えられます。


上記⑴及び⑵のいずれの場合も、定型約款の内容まで示す必要はないと考えられます。ただし、実務的には約款の内容まであらかじめ表示することを検討すべきと思われます。これは、定型約款を準備した者が、定型約款を記載した書面や電磁的記録を提供していない場合、取引の相手方から請求があれば、定型約款が記載された書面や電磁的記録を提供する義務があるためです。つまり、個別的に開示請求があった場合の対応コストを考えれば、契約締結以前に、一律に定型約款を提供してしまった方がよいという考え方です。


第4 定型約款の変更が有効となる要件と実務上の対応

定型約款の変更が以下のいずれかに当たる場合、一定の手続きを踏むことで、取引の相手方と個別に合意することなく、契約の内容を変更することが可能です。


①   定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
②   定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき


上記①の場合、取引の相手方にとって利益になる方向で変更する場合ですので、特段の問題はありません。


上記②の場合は、変更に係る事情を総合考慮して合理的であれば変更を認めるという趣旨ですが、その際に考慮される事情には多種多様なものがあります。実務的には、約款中に、約款の変更の要件や手続きについての具体的な定めを設けておくことが推奨されます。もっとも、この措置のみで変更が有効になるわけではありませんので、変更が認められるのか否か、判断に迷われる場合は事前に弁護士にお問い合わせください。